2021.08.24

世界一やさしい 「経営戦略」立案講座 第二章

世界一やさしい 「経営戦略」立案講座 第二章

企業活動を6つに分解する

企業の構成要素と俯瞰的視点とは

1章では、日本の経営環境がいかに厳しいか、かなりネガティブな話題ばかりを取り上げてきました。というのも、企業が置かれている現状を正確に把握していただきたいと思ったからです。

 

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」

 

これは、孫子の有名な言葉ですが、敵、味方関係なく情勢をしっかり把握していれば、何度戦っても敗れることはないという意味です。
企業の経営環境を整え、末永く企業を存続させていくためには、まず全体を正確に把握しておかなければ、次の戦略を考えることが不可能です。それを的確に表したのが、この孫子の言葉です。

 

では、これまで述べた環境の中、どのように企業を経営し、困難に対して打開策を講じるべきでしょうか。逆転に一手はないのか、顧客企業だけでなく今後の日本企業に必要なことは何かを、私は真剣に考えてきました。
そしてたどり着いた出た答えは、意外にもシンプルなものでした。
それは「誰もが使える経営戦略手法のマニュアルをつくる」ということです。

 

経営戦略はビジネスにおいては重要な施策ですから、さまざまな経営戦略技術がまるで台風のように渦巻いています。
しかし、まるで台風に目があるように、中心に誰も気づかなかった青空がポッカリとあることに気がつきました。それが「経営戦略の基礎となるマニュアル」でした。

誰もつくらなかった経営戦略の基本

これは2008年頃、私がまだ広告会社の役員をしていたときのことです。
CMなどの広告制作は苦労も多かったですが、楽しい仕事でした。その思いは今でも変わりませんが、その当時ふと頭をよぎったものがあったのです。
それは広告というサービスの限界です。顧客である企業からの依頼はたくさんあり、その多くは一流企業でしたから、まだそんなことを心配しなくてもよかったのですが、何かもやもやとした疑問やわだかまりが常に胸の内にわいていました。そんなときに、私の疑念をさらに強く思い知らされる出来事がありました。

 

日本の景気は基本的に上向きになり、雇用も増えてきた矢先、世界を震撼させた「リーマン・ショック」に見舞われました。欧米の経済は一気に沈み、日本の多くの企業もその道連れとなりました。
私たちの会社は広告制作によって多くの企業をサポートし、収益を上げるためのお手伝いをしてきたわけですが、「リーマン・ショック」によってもろくも凋落する企業を目の当たりにし、有事に際して広告がどれだけ無力なのかをまざまざと見せつけられました。10数年身を置いてきた広告業界の限界とはこれだったのではないかと、気づかされたのです。

 

私は、「このまま広告制作の会社を続けていいのか」と自問自答し、その答えを見つけるために、企業経営そのものを勉強しようと考えました。経営の勉強にはビジネススクールでMBAを取得するのが適切だと判断し、経営管理学の勉強を始めました。さらに経営戦略やマーケティングに関するいくつかの学会にも入会し、多くの研究発表を聞くようにしました。
そこで分かったのは、広告とは企業経営全体からみればごく一部分の機能にしかすぎないという点です。恥ずかしながら、当時の私は、自分の得意な広告の分野からしか経営を見ておらず、実に近視眼な視点しか持っていなかったのです。
このスクールでの勉強は私に発見をもたらしてくれましたが、経営に関するさまざまな科目を履修していくうちに、今度は新たな疑問がわき起こったのです。それは、「MBAで学ぶ経営管理の手法はマニュアル化されているんだろうか」というものでした。

 

MBAには、「マーケティング」、「ファイナンス」、「組織行動」などいろいろな科目がありますが、「経営戦略の策定において、何の科目がどの位置にあり、どの順番でどうつながっていくか」ということは、MBAスクールではまったく教えてくれないのです。ビジネススクールで経営戦略の勉強をしているはずなのに、かえって複雑さを増して経営戦略とは何かが分からなくなり、頭の中が混乱してきました。そこで、「経営戦略を立てるマニュアルがあるのなら、それに沿って勉強すれば簡単に整理がつくのに」と思いいたりました。
身近な例を挙げれば、自動車の運転免許です。免許取得には学科、実技などの科目がありますが、それらは体系化され、ノウハウはきちんとマニュアル化されています。同様に、ファストフードやコンビニエンスストアのアルバイトに対しても接客マニュアルが存在し、全国どこでも同じ対応がなされています。家電やパソコンなどにも説明書というマニュアルはありますし、ソフトウェアを操作するための教本や認定資格さえ存在します。
だから、経営戦略にもそんなマニュアルがあれば、自分だけでなく多くの経営者も、抱えている複雑な課題を整理でき、経営戦略を策定する負担が軽減できるのではないのかと考えたのです。
その頃、すでに私は経営側の人間でしたから、経営戦略のノウハウをまとめたものがあれば、社員教育に使えるのではないかもと考え始めていました。自社のスタッフ全員がMBAを取得しなくても、比較的容易にサービスを提供するノウハウが身につくはずだと思ったのです。この経営戦略マニュアルがあれば、社員教育に活かせば、時間や労力、費用も節約できます。

 

世の中には、数多くの経営戦略や社員教育などに関わるビジネス書があふれかえっています。もしかしたら、それらの中に、私が思い描いていたようなものがすでにあるかもしれないと思い、探してみることにしました。また、イメージしているものとは多少違っても、手を加えて新たなマニュアルをつくり、新サービスの展開に応用できればいいのです。
こうして、まるでロールプレイングゲームのような「経営戦略のマニュアル」探しの旅が始まりました。しかし、この素朴で単純な疑問から生まれた発想が、後にとても重くのしかかってくることになったのです。

 

経営者にとっての経営戦略は最大の関心事のはずです。経営戦略は大抵の企業が行っていて、すでに数多くの研究がなされていると思っていましたから、速やかにかつ効果的に実践できる、体系化されたマニュアルはもうあるものだと思っていたのが浅はかでした。
書店や図書館に通っても、なかなか思い描いたような経営戦略のマニュアルが見つかりません。経営戦略を実施するうえでのステップやノウハウが書かれたものは存在するのですが、私自身が実務や経営学研究で得た知識から見ると、どれも内容については「帯に短し襷に長し」。研究論文としては秀でていても実践には足りない、または理論さえも中途半端で欠落しているなど、役に立つどころか、参考にさえならないものばかりでした。

 

コンサルティング会社などの民間企業や経営戦略に関する協会、さらに大学機関にも問い合わせをしてみました。海外の論文も数百本と読みました。しかし私が考えるような経営戦略マニュアルどころか、営戦略策定の流れを表したスキームさえ見つかりません。イメージに近いと思うものさえないのです。
結果、いくら探しても「これだ」という適切な経営戦略のマニュアルは存在しないという結論にいたりました。その一方、さまざまな調査をして、なぜ誰も経営戦略のマニュアルをつくらなかったのか、その理由が少しずつ分かってきたました。

進まない経営学と実業の融合

まず分かったのが、大学の経営学の研究と実業の分離です。本来、経営学の研究は実業に関する分野ですから、国内外で行われている経営の実態を反映し、経済や社会をさらに活性化させるような事柄が研究対象となります。
もちろん医学や化学、生物学などにおける基礎技術の研究や、歴史、文学など人類の知識や好奇心の探求に必要な研究もあるので「実業に結びつきにくい=無駄な研究」などとは、一切考えてはいません。

 

ただ、当時の私が求めていたものは、実業に直接結びつく実践的な経営管理学の研究です。ところが、経営管理学の分野でも研究する人はあくまでも研究者であり、実業の経験者は多くありませんでした。また、論文作成には厳密なルールが存在します。このルールを守らないと論文として認められません。論文が認められないとなると、教授はその権威も立場も守れないし、学生は学位の取得も卒業もできません。このような学術界の構造は、結果、論文査読通過に重きがおかれ、統合的な考え方やイノベーティブな研究、実践適用の方面からはどんどん離れていってしまうのです。そのため私の求めているものとは程遠く、心に直接響かないものばかりでした。
さらに、研究者は主として大学などで教鞭を執っており、特に日本では昔ながらの「学生に講義する」スタイルが中心となってしまいます。最近では、ゼミや実習でさまざまな模擬的要素を取り入れた実戦的な授業が増えているようですが、学術と実業の乖離については、まだまだこれからという印象です。海外の大学ではもう少し実践適用の方向に舵をきっています。

 

このように、学術界には経営戦略の統合理論を策定するという動きは期待できそうになく、当然、そこからは実業に応用できるマニュアル策定の動きはまったくありません。
もちろん、マーケティング論で著名な米国の経営学者フィリップ・コトラーの「ホリスティック・マーケティング」や「統合マーケティング・コミュニケーション(IMC)」など、私が考える経営戦略の統合論に近いものは存在します。しかし、これらはマーケティング領域に限られたものであり、私の理想を満たすのに十分な理論ではありませんでした。

企業の経営戦略のほとんどが自己流

こうした経緯から、実際の意味で経営に取り組み、事業展開している多くの一流企業にはどのような経営戦略マニュアルがあるのか、さまざまなつてを頼って探ってみることにしました。これまでお付き合いのあった企業、コンサルティング会社、大手広告代理店など、恥をしのんで同業者に尋ねてみたこともあります。

 

ところが、どう食い下がって聞いてみても、私が思い描くような経営戦略マニュアルやスキームらしきものを持つ会社は存在しませんでした。
正確に言うと、ないわけではありません。ただ、あるのは各会社のサービスに関連するマニュアルや社員教育マニュアルなどであり、「経営戦略」をと呼べるものを包括したマニュアルは存在しなかったのです。
なのに、企業は日々経営活動を続けています。新しい製品や業界初とされるサービスなどが次々登場しています。製品のバージョンアップもどんどん進んでいます。どうして、こうも経済は動いているのに「経営戦略の基本」が姿を見せないのでしょうか。経営者や企業の戦略パートナーであるべきコンサルティング会社らは、何をもって経営戦略の知識を学んでいるのでしょうか。疑問に思い、片っ端から聞いて回り、私はさらに混乱してしまいまいました。
私の問いに彼ら、彼女らはこう答えたのです。

「自分で勉強した」
「上司や先輩に教えてもらった」
「セミナーで学んだ」
「MBAで学んだ」
「コンサルティング会社が教えてくれた」

そして遂に、このような回答までもらったのです。

「何も勉強した覚えはない」

これらの回答者の中には、皆さんもご存知の「超」のつく有名企業の関係者もいます。私は呆然としました。結局、誰からも明確な回答を得ることはできませんでした。
企業の経営者や幹部、大手コンサルティング会社、大手広告代理店にいたるまで、経営戦略は多種多様な手法や情報を自分の経験値と融合し、ほかには応用できない自社独自の経営戦略手法を構築していたのです。

 

社会や経済だけでなく、地政学的な問題、さらには自然環境や事故なども含めて、「想定外」の事象がたびたび発生し、不確実性の高い社会環境となっているのは確かです。そんな時代の中で型やマニュアルを当てにしては、イノベーションが起きなかったり、市場の環境変化に対応できなかったりして、企業文化の発展に支障が生じる危険性はあります。
だからといって、経営の基礎を学ばずにいきなり実戦に入っては、負けてしまうのは確実です。そう思うのは、私が青春時代を空手に費やしてきたからかもしれません。

 

すべてのスポーツに共通することですが、強い選手になるためには基礎が大切です。特に空手では「型」というものをとても重視します。  空手だけでなく日本古来の武術、さらには茶道などにいたるまで、理想的な修業の過程を「守破離(しゅはり)」といいます。

 

「守破離」の「守」は、初心者として入門し、師範に教えを請い、その道の考え方や「型」などの基礎技術を学ぶことです。つまり修業の始まりです。
「守」の段階を経た次は、その「型」を自分なりに解釈して取捨選択し、さらに自分なりの考えや斬新な型があればそれを取り入れ、自分のものとしていくことです。「守」で学んだ「型」を破ることも必要になることから、これを「破」と呼びます。
自分なりの流儀や思想をしっかりと身につけたら、今度は自分自身が師となり、独自の道を歩んでいくことになります。これは新しいものを生み出し、確立させた最後の段階で、今までの師や流派から離れることから「離」と呼ばれます。
この「守破離」は、「道」の修業だけはなく、ビジネスにおいても理想的なプロセスで3つのステップで示したものです。空手の道を歩んだ身としては、体にすでに染み込んでおり、実にしっくりとくる考え方です。
経営戦略マニュアルを探した結果、この「守破離」を踏まえた経営者育成のガイドラインや社員教育のシステムが存在しなかったということが、私にとって衝撃でした。

 

これはつい先日のことですが、この「経営戦略マニュアル探しの締めくくり」として、とある大学の教授と、経営戦略のマニュアルの必要性について議論させていだく機会がありました。
その際に教授から次のような質問をされたのです。

「AI(人工知能)、IoT(Internet of Things=人を介さず機器がインターネットでつながることにより提供されるサービスやビジネス)など、変化の激しい市場において経営戦略のマニュアルなど意味があるのでしょうか?」

 

私はそれを受けて、教授に尋ねてみました。

「では、先生が企業の経営サポートを行う場合、何の知見を持って、どのように提案するのですか? すべて企業まかせですか?」

さらに私は質問をたたみかけました。

「企業は、とにかく次の一手、課題の解決をしたいのです。例えば、市場の急激の変化や消費者意識が変化し、自社の製品がほかのサービスに取って代わられてきつつある現状がもうすでに存在しています。そこで経営者たちが危機感を持って相談してきた場合、先生はどうお答えしますか?」

 

教授はしばし沈黙したあと、言葉も途切れがちにいくつかの方法論を語り始めました。その内容については詳しくは述べませんが、正直ありきたりな回答だと思い、こう申し上げました。

「その施策は先生独自の考えですか、それとも何らかの定石(型)から生まれたものですか?」

このやり取りはまるで禅問答のようだったかもしれません。
確かに変化の激しい市場環境ですから、「型」に固執するのは奇妙なのかもしれません。ただ、一旦、戦略の「型」を習得し、そこから独自の手法を生み出すことが必要なのでは、というのが私の考えです。それを懸命に伝えたのですが、結局平行線で終わってしまいました。
この問答からわかったことは、教授のように多くの企業戦略に携わる人々は、戦略の「型」であるマニュアルをつくることを必要としていないか、または、マニュアルをつくることなど到底無理だと思っているのではないか、ということです。

 

経営が傾いたり、倒産してしまったりした企業の経営者でも、その時点までは会社を営んできたわけで、それなりのノウハウを持っているはずです。でも危機に直面することになったのは、どこかで何かを見誤ってきたからでしょう。
ここで経営者は次なる打ち手が必要となるのですが、戦略策定上の大きな壁が立ちはだかります。それは、これまで体験したことのない状況において、どのようにすれば危機を乗り越える戦略を編み出せるのかという問題です。
膨大な書籍の数々を読めばいいのでしょうか。今さらMBAなどのスクールに行って学ぶのでしょうか。そんな時間はありません。たいていは経営戦略の策定やサポートをしてくれる企業に力を求めるでしょう。では、最適なサポート企業をどう選んだらよいのでしょうか。新しい課題が発生します。
さらに相当なコストをつぎ込んでサポート会社を選定すれば、なにがしかの提案がなされます。ただそれは、おそらくこれまで自分たちが行ってきたこととは違うアイデアのはずです。なぜなら、これまでのやり方が失敗してしまったわけなのですから。経営者はここで次の課題に遭遇します。その提案された新しい戦略が正しいのかどう判定する作業です。

「有名なコンサルティング会社なのだから、大丈夫」

本当にそれだけで実行に移しても大丈夫なのでしょうか。こうして何の根拠もなく莫大な経費を投入し、混乱の末に当該企業の迷走が始まるのです。
私の知るところでも、このような展開で会社を立て直し、新たな戦略を構築できた経営者はほんの数えるほどしかいません。
こんな「経営の迷子」にならないようにするために、戦略の統合理論を誰かが統一させ、マニュアルの基本形を完成させる必要があるのです。マニュアルを理解して企業戦略を体系的に学び、戦略リテラシーの高い経営者らが多く生まれれば、日本の企業はもっと強くなると私は信じています。
ただ、誰もそのマニュアルを完成させようとしません。だからこそ、私がやらなければならないと決意したわけです。

 

学術界では、学問的分析を重視し、先行研究の掘り下げを行っているため、深部はのぞけますが、実業との統合化は期待できません。
かといって経営者らは、統合化されたマニュアルを開発する動機はありません。なぜなら、自分の業界、さらに言えば自社だけで戦略を立てればいいからです。むしろ自分たちの開発した戦略マニュアルだったら、競合他社に知られたくはないでしょう。
経営を後継者に引き継ぐ手法も、これまでの会社の伝統を継げる人物か、期待できる人物を抜擢すればいいだけです。自社にいなければ、他社から引き抜けば問題ないと考えています。

 

ただそのようなやり方をして、現実問題として企業、特に中小企業の業績低下は激減し、倒産などの最悪な結果に陥っています。だからこそ、ここで一定の水準を保った経営戦略マニュアルやスキームを完成させ、ひとつでも多くの企業を救っていきたいと思いました。
企業経営に関して、台風のように激しい暴風雨の中で最新の理論や技術が日々生まれています。しかし、その台風の中心である目の部分、すなわち基礎の部分は何もなく、すっぽりと抜け落ちていたのです。
これが、私の見つけた「台風の中心にある青空」です。こうして日本の企業が新たなる活性を図るために、経営戦略におけるマニュアルの開発が絶対と気づいてしまいました。

 

とはいえ、経営戦略のマニュアル開発と一言でいうことはできても、実際につくるとなれば話は違います。実に大きな苦労が伴いました。
まず私が着手したのは、一旦探したはずの経営戦略マニュアルに類似するものをもう一度洗い出すことでした。私が考える、経営戦略のマニュアルに一番近いものを見つければ、それを改良するだけでよいと考えたのです。マニュアルが存在調査を再開し、人に尋ねて回り、資料や論文を改めて読み尽くしました。実に2年の時間をこの作業に費やした結果、やはり改良前提としても経営戦略マニュアルの参考になるものはないという結論に達しました。これは、私自身が経営戦略マニュアルを自力で開発しなければならないと決心する合図でもあったのです。

 

ただ、多くの知識を得た分、これから始まる経営戦略マニュアルの開発の大変さを想像すると、呆然自失してしまう有様でした。何しろあまりの情報量の多さと複雑さに辟易としたのです。誰も経営戦略スキームの体系化に挑戦しなかったはずです。
そこでふと思い出したのが、ビジネススクールで行ったグループ課題のことです。
ビジネススクールではメンバー参画型の実践的な課題が与えられます。そのひとつが大手家電メーカーの経営戦略の策定でした。グループのリーダーだった私は、ビジネススクールで習った既存のフレームワーク(※)では経営課題を解決に導けないことに気づきました。ならば新たにつくろうと決意し、チームでフレームワーク開発を始め、オリジナルのフレームワークを用いて家電メーカーの戦略策定を行い、プレゼンしました。

 

※フレームワークとは、経営戦略や業務改善、問題解決などに役立つ分析ツールや思考の枠組み。MBAなどで教わることが多く、ビジネスに必要とされるロジカルシンキングや発想法などを体系的にまとめたもの。SWOT分析、ファイブフォース分析などが挙げられる。

 

そのときの教授は、かつて外資系の大手コンサルティングファームに勤めていた方です。私たちのプレゼンはうまくいったように見えたのですが、なぜか新たなフレームワークをつくり上げたたことに怒りを買い、グループの評価は下げられてしまいました。
しかし仲間たちは、「いつか、このフレームワークが日の目を浴びることがあるよ」と理解を示してくれました。
後日、この教授と再会した際、授業でフレームワークをつくったのは私くらいで、あまりにも突飛なことに面くらって、つい評価を下げてしまったと聞きました。
それはさておき、私は当時つくったフレームワークを引っ張り出し、改めて見直したところ、もしかしたら、使えるかもしれない」と、私は直感しました。
当時真剣に考えたフレームワークは荒削りながら、私の求めてい経営戦略マニュアルの元になりそうな雰囲気を醸し出していたのです。MBAのグループメンバーが言っていた「いつか日の目を浴びる」という言葉を思い出し、このフレームワークを改良してみようと決めました。

企業活動を「6つの基本」に分解して経営戦略を策定する

経営戦略といっても、「ファイナンス」「組織行動」「HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント=社員を包括的に管理する人事管理手法)」など、科目は山ほどあります。まずは、戦略手法や使用されるワードなどをテーマごとに整理・分類していきました。
次に行ったのはワードの意味の掘り下げです。プロモーションとマーケティングの違いは何か。ブランディングの実際の手法とはどんなものか。経営戦略と事業戦略との違いとは何か。経営戦略を実施するためにはどのような順番が適切なのか。こうした分析を踏まえて戦略策定の順序を整理し、大雑把な「地図」をつくりました。
さらに、この経営戦略の「地図」に詳細な戦略手法をはめ込んで行く作業を行い、実践可能な経営戦略マニュアルの原型ができあがったのです。  しかし、これだけではまだ経営戦略を策定することはできません。実践適用させるためには、この経営戦略マニュアルに、さらに、今最新の各種戦略テクノロジーを詰め込む必要があります。なおかつ誰もが理解できるものに整形し、使えるようにすることで、初めて経営戦略のマニュアルが完成するのです。

 

こうした過程を経て、でき上がった経営戦略マニュアルを説明しましょう。
冒頭に述べたように「戦略」とは軍事用語です。こんな時代には不謹慎かもしれませんが、戦争では次のようなプロセスが取られます。  まず行うのが、調査と分析です。敵の兵力や兵器の数を調査し、自国の兵力や兵器の数、及ぼす威力を把握する必要があります。
さらに、敵に勝つ目標を掲げ、兵士のみならず、国民までにその目標を共有させなければなりません。
次に、どのような軍備や軍隊を構築するかを検討します。例えば、調査によって敵の弱みを見つけたら、そこを効果的に突くための軍備をつくり上げ、どのように敵を攻めるか計画を練ることになります。これが作戦です。
作戦が決まったのち、それに見合った武器や兵員を用意し、どのように戦えば有利に戦を進められるか、タイミングや行動を決定します。
こうして準備を整えて実戦へと突入します。作戦どおりに戦力を投入して争います。戦いが一段落ついたら、勝ち負けいずれにしてもその結果を分析する必要があります。その結果、さらなる調査をするか、作戦を変えるか、軍備を代えるか、はたまた白旗を上げるか、次の方向性が決まります。これが一連の戦争の流れです。
私が考える経営戦略マニュアルは戦争の仕方に似ていて、ある意味とても単純なパターンに落とし込むことができました。

 

では、実際の経営戦略策定はどのような手順(スキーム)になるかを紹介しましょう。
まず企業の活動要素(エレメント)を以下の6つに分解します。その要素をサークルにプロットするだけでスキームは完成します。
実は、経営戦略立案とは、このたった6つの要素で策定することができるのです。

「1.調査・分析」
「2.理念・事業ドメイン」
「3.事業戦略」
「4.マーケティング」
「5.マネジメント」
「6.オペレーション」

 

この経営戦略のスキームは、前述したように6つのエレメントで構成することから、「6e」と名付けました。「6e」は単純な構成のように見えますが、企業戦略に必要なあらゆる項目を俯瞰で確認することができます。自分たちの思い描く目標はどこにあり、それを達成するにはどこにどういう配置をすればよいのか。それは、企業ごと、また経営者の考えごとに異なります。しかし、どのタイミングで何をすべきか、ということはどの企業でも共通しているはずです。頭の中に漠然と思い描くより、この図を用いて視覚化することで「いつ何をすべきか」が明確になります。

 

さらに重要なことは、思い描いた戦略のイメージをほかの人々、つまり経営幹部や社員たちに的確に伝えることができる点です。これによって経営者と社員は同じ目標とそのプロセスを共有することができ、一丸となって前へ進むことができるのです。
「6e」をベースとしたこのスキームは、現在も常に実践からのフィードバックや新たな各種戦略技術の開発、さらに経営学の分野で発表された最新の論文などを取り込み、研究を深めることによって常に最先端の経営戦略スキームになるよう改訂を続けています。
我が社では、私が広告制作をしていた経験もベースになっているため、実際に「6e」を携えてサポートにうかがったときには、経営戦略の策定から「武器(映像、WEB、イベント、グラフィク等のツール)」の配備、さらに経営環境を整えるためのITまでをひとまとめに提案できるところが強みです。そのための指針として「6e」が位置づけられているのが最大の特徴ともいえるでしょう。そして、この経営戦略スキームは、これまで1000社以上に採用されてきました。その成功実績はさらに検証と分析を経て新たなノウハウとして蓄積され、大きなデータベースとなっています。「6e」は生き物のように日々進化しているのです。

 

さて、次章から経営戦略における各パートの説明を始めますが、併せて自分の会社の経営戦略を策定してみましょう。
但し、以下の注意事項を、予めご説明しておかなければなりません。
これから説明する経営戦略の6つの基本は、あくまでも、経営戦略の基本の紹介です。経営戦略の全てのエッセンスを紹介しようとなると、それこそ、この書籍のページ数では不可能。(この分量でも出版社には怒られました)なので、本書籍で紹介するのは、企業戦略の構成要素と、いくつかの事例が限度となります。
そのため、紹介しきれない、各種経営戦略ノウハウは、各パートに関連する項目の書籍を探してください。そうして経営計画を策定すれば、かなり精度が高くなるのものになると考えて言います。
また、みなさんのお立場が経営幹部でないのなら、所属する自社の経営戦略を、項目に従って立ててみてください。意外にも新たな経営戦略が策定できるかもしれませんし、新たな発見があるかもしれません。 確かに我が社がクライアントに対し経営戦略策定を行う場合、実際の現場は確かに複雑な事情がからみあい、経営計画書は300ページくらいになることも少なくありまません。
それでも、この書籍で各パートの基本を再確認することは価値があることだと考えています。