2022.04.10

ほとんどの社長が知らないリーダーシップとは

ほとんどの社長が知らないリーダーシップとは

間違ったリーダーシップが会社を危うくする

リーダーシップと企業業績の相関について、多くの研究論文があります。当社の企業サポートの経験においても、企業の浮沈は社長や部門長などのリーダーシップに、かなり影響していると実感することがあります。

リーダーシップの良し悪しが明確に業績に反映するため、今一度ご自身のリーダーシップを振り返る必要があります。

 

まず、リーダーシップの定義を以下に記します。
引用:https://www.hito-link.jp/media/column/leadership
リーダーシップとは「指導力・統率力」などと表現され、ある一定の目標達成のために個人やチームに対して行動を促す力のことです。基本的なポイントとしては主に以下の3つがあげられます。

・目標達成のためのビジョンを示す

・ビジョンが実現するように、スタッフのモチベーションを維持しながら励ます

・ビジョンを実現するにあたって問題となる部分を解消する

チーム全体で成果を上げるには、リーダーの力だけでは成し得ることはできません。メンバーそれぞれが周りに好影響を与えつつ、どのように行動していったらいいか自主的に行動していけるように導く力が求められるのです。リーダーシップについては、これまでさまざまな有識者たちが提唱してきました。なかでも経営学者として有名なピーター・ドラッカーが提唱したリーダーシップ論では、リーダーとはカリスマ性とは関係がなく、人々が自ら「つき従う」ことだとしています。ドラッカーは、リーダーシップについて「仕事・責任・信頼」という言葉を使って定義づけています。

 

このようにリーダーシップの定義は上記のような記述内容が一般的です。簡単にまとめると、「理念〜ビジョンの浸透」「チーム(社員)に動機をもってもらう」「組織に関わる問題を解消する」ということになります。しかしながら、私が見てきた組織(会社)のほんとんどは、「社員がリーダーを信頼していない」「リーダーは社員を信用していない」そんな組織が多く存在しました。

リーダーシップが機能している検査方法の一つに、「従業員エンゲージメント調査」というものがあります。

 

この調査は、

・理念に共感しているか

・社員がどれだけ会社を好きか、信頼しているか

・組織の問題を取り除く動きがあるか
など、リーダーシップが機能していれば高得点が出るようになっています。低い点数の会社は、社員が社長や上司を信頼していなく、正しい活動をしてもネガティブな評価を受けたりと、組織的な問題が数多く存在し、結果業績が低迷し、かつ退職率が高くなっています。反対に、点数の高い会社は上記の反対の方向になっているのです。サービスや商品が良くても、組織が腐り始めると、いずれ会社は衰退に向かいます。

このように、組織の浮沈は、リーダーシップに強い影響を受けるものですが、肝心のリーダーたちが、この問題に向き合っていない事例が数多く散見されます。

 

一つ事例をあげます。とある会社のことですが、40代中堅社員の多くが給料20万円代の会社で、社長は高級車に乗って会社に来たりします。当然残業費も払わず、まさにブラックな会社。それでも、そこの社長は声高々にビジョンを掲げています。確かに社長はご自分の報酬で車を買ってはいるのでしょうが、高い報酬をもらっているのは明白で、その報酬は社員の薄給の上になりたっているのは、その会社の社員は必ずわかります。そこで、会社の夢を語られても、社員が白けるのも無理のない話です。(笑)

 

この事例はリーダーシップ以前の問題ですが、最近思うのは、社長、部門長などのリーダーのEQ※の低さです。

※EQとは「Emotional Intelligence Quotient」の略で、1990年に米国の心理学者ピーター・サロベイ氏とジョン・メイヤー氏により研究された理論です。EQという言葉そのものはケイズ・ビーズリー氏の論文のなかで初めて登場しています。日本語では「心の知能指数」と意訳され、仕事や人間関係において「感情をうまく管理し、利用する能力」であるとされています

 

現場で発生している組織の軋轢や社員の感情が見えなくなっている。そう思わせる報告が当社の各チームから上がってきています、、。

少し横道にそれましたが、今本コラム拝読いただいている皆様は、いくつかあるリーダーシップの種類として、私がおすすめする「サーバントリーダーシップ」を知っていただければと思います。

サーバントリーダーシップとは

サーバント(servant)は、「奉仕者」や「使用人」という意味を持つ言葉です。それに加え、組織のメンバーの力を最大限に発揮するための環境づくりに奉仕・支援するリーダーシップのスタイルという意味もあります。

 

サーバントリーダーシップとは「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」という考えのもとに生まれた支援型リーダーシップのことで、部下の能力を肯定し、お互いの利益になる信頼関係を築くといったスタイルのリーダーシップです。

 

部下を何もできない存在と考え、一方的に命令して動かすスタイルではなく、組織としてのビジョンを示し、部下を信頼して協力し合いながら、組織全体の成長を促すことに重きを置きます。

 

簡単に言いますと、理念やビジョン、そして戦略設計はリーダーからきちんと社員に落とし、いざ業務になれば、リーダーは最下層部に位置し、社員、取引先、そして社会を支えるという考え方です。

 

サーバントリーダーシップにおける理想のリーダーとは

サーバントリーダーシップにおいて、理想とされるリーダー像は何でしょうか。サーバントリーダーに必要なものは奉仕の精神。自らの良心に従いより良い世界へ導くことを自身の責務と信じ、その上で部下を中心に考えた組織運営を行うのです。

サーバントリーダーは周囲の人々との信頼関係を重視しており、部下の話に耳を傾け、協力しながら目標を達成します。メンバー各自のモチベーションを意識し、たとえ失敗してもそれを学びに変える環境づくりに取り組むことができる人こそ理想のリーダーといえるでしょう。

サーバントリーダーの役割

サーバントリーダーシップの理論においてのリーダーの大きな役割は、部下やメンバーへの「奉仕」。そのためには、私利私欲から離れた奉仕の精神を持っている必要があります。

リーダーは、カリスマ性や高位の職権が伴うものではなく、相手にまず奉仕をして、それから相手を導くものだというのがサーバントリーダーシップにおけるリーダーの役割なのです。

現代社会において注目されている理由

その理由として考えられるのは、かつてのアメリカのように社会的な不安や腐敗から、リーダーに倫理的な信頼感を求めている社会の流れに加え、ITの発達や急激に広がるグローバリゼーションなどです。

ワールドワイドなビジネスの速度に対応することが必要不可欠とされる現代において、一人のリーダーがすべてを管理してメンバーに支持を与えるやり方では間に合いません。そこで、メンバーが持っている力を発揮し、成果を生み出しながら成長して、パフォーマンスを上げていくことが求められるのです。

リーダーが個人の特性と資質を理解し、個々が活躍できる環境をつくり上げていくことが重要という時代だからこそ、サーバント的なリーダーが不可欠だと考えられました。

日本企業に支配型リーダーシップが多い理由は?

日本においてこれまで主流となっていたリーダーシップは「支配型リーダーシップ」と呼ばれるものでした。これは、強い意思の下、リーダーが自身の考え方や価値観を貫き、部下を強い統率力で引っ張っていくようなリーダーシップ像です。

メンバーに対しては、その権力を用いて一方的な説明や命令を出し、コミュニケーションを取っていました。

ロバート・K・グリーンリーフによってサーバントリーダーシップが提唱されたのは1970年ですが、日本で知られるようになったのはごく最近です。ビジネスを取り巻く環境が激変して、人材にも多様性が求められるようになった点を背景に、今までのリーダーシップとは正反対ともいえる「サーバントリーダーシップ」が注目されるようになってきました。

現代ビジネスにおけるサーバントリーダーシップの必要性

サーバントリーダーシップは「リーダーのために部下がいる」という従来の組織の発想を逆転させ、「部下を支えるためにリーダーは存在する」としています。上司は部下の自主性を尊重し、部下の成功や成長に奉仕する行動を実践することで、組織のメンバーの行動を変え、生産性向上につなげていくのです。

メンバー一人一人の声に耳を傾けて自主性を尊重するリーダーの存在により、信頼関係が育まれ、コミュニケーションが円滑になります。そして、メンバーの仕事に対するモチベーションがアップしていくのです。

「この人にならついていきたい」と部下に思われるようなサーバントリーダーの活躍が目立つようになったことで、昔ながらの支配型リーダーと比較し、その価値や必要性が再認識されています。

項目 従来のリーダーシップ サーバントリーダーシップ
モチベーション 最も大きな権力の座に就きたいという欲求 組織上の地位に関わらず、他者に奉仕したいという欲求
マインドセット 競争を勝ち抜き、達成に対して自分が賛美されることを重視 みんなが協力して目標を達成する環境で、みんながWin-Winになることを重視
影響力の根拠 目標達成のために、自分の権力を使い、部下を畏怖させて動かす 部下との信頼関係を築き、部下の自主性を尊重することで、組織を動かす
コミュニケーションスタイル 部下に対し、説明し、命令することが中心 部下の話を傾聴することが中心
業務思考能力 自分自身の能力を磨くことで得られた自信をベースに部下に指示する 部下へのコーチング、メンタリングから部下と共に学びよりよい仕事をする
成長についての考え方 社内ポリティックスを理解し活用することで、自分の地位を上げ、成長していく 他者のやる気を大切に考え、個人と組織の成長の調和を図る
責任についての考え方 責任とは、失敗したときにその人を罰するためにある 責任を明確にすることで、失敗から学ぶ環境をつくる

サーバント・リーダーシップの導入事例

サーバントリーダーシップを実際に導入し、成功している事例をご紹介します。

 

●サウスウエスト航空

『世界でいちばん従業員を愛している会社』という書籍も出版されているアメリカのサウスウエスト航空では、「全従業員がリーダー」「従業員が一番大事。顧客は二番目」というポリシーを掲げるなど、サーバントリーダーシップが全社的なカルチャーとして浸透しています。それは、顧客といつも接しているのは従業員であり、従業員を支援することが企業や株主を繁栄させ、顧客満足につながるという考え方からです。

その結果、アメリカの航空会社の中では唯一、同時多発テロ事件の影響をレイオフなしで乗り越えることができたとして有名になりました。

 

●スターバックス

スターバックスの取締役として、創業者のハワード・シュルツとともにスターバックスを世界的なコーヒーチェーンとして成長させたハワード・ビーハーの著書『スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原則』によると、スターバックス最大の価値基準は「人がすべて」であり、「すべての人に尽くす人間こそが最も有能なリーダーである」としています。

こうした考え方の元になったのがサーバントリーダーシップです。ビーハーは著書の中で、本の売り上げの半分をサーバントリーダーシップを提唱する研究所に寄付すると書いています。

 

●アメリカ空軍

軍隊の兵士は、互いに信頼がなければ共に戦場で戦うことはできません。部下の兵士から恨みを持たれているようでは作戦はうまくいきませんし、最悪の場合、味方であっても背後から撃たれる可能性がないとは言い切れません。

そのため、アメリカ空軍にはサーバント・リーダーシップを重んじる文化があり、現在でもその考え方によって信頼に基づく強い団結と結束が保たれています。

 

●資生堂

資生堂の池田守男相談役は、サーバントリーダーシップの実践者です。同氏は「会社を再建する」「新しく生まれ変わらせる」というミッションの下、社長に就任し、その在任中に「店頭基点」を念頭に組織改革を行いました。

顧客を一番上に置く逆ピラミッド型組織を推進するサーバントリーダーシップを経営の中心概念に据え、自らビューティーコンサルタントや営業職の会議に顔を出して現場スタッフの話に耳を傾けたのです。そこで見聞きした内容から得たアイデアを施策に活用したり、社員が活動しやすいような環境の整備などに尽力したりして、経営における数々の改革を成功させました。氏は著書の中で、「大切なことは、変革の必要性や可能性を社員に理解させ、ゴールを示して、そこに主体的に向かうようにモチベートすることだ」と述べています。

 

●良品計画

無印良品を運営する良品計画の元社長・松井忠三氏も、サーバントリーダーシップを取り入れた先駆者の一人です。業績が急落したタイミングで社長に就任した同氏は就任後、全国ほぼすべての店舗を自分の足で回り、店長や現場の話に耳を傾ける機会を設けました。

傾聴の結果見えてきた課題をもとにして、業務を可視化する「MUJIGRAM」というマニュアルと、現場スタッフの声を吸い上げるシステムを開発したのです。サーバントリーダーシップの10の特性にある「概念化」と「先見力」を実践した事例だといえるでしょう。

良品計画は、2001年に松井社長が就任したのち、その後V字回復を達成。現在も増収増益を続けています。

 

●ダイエー

続いて大手スーパー、ダイエーの元社長である樋口泰行氏の例を紹介します。当時、トップダウン経営による業績悪化の結果、赤字が続き閉鎖が決まった50もの店舗がありました。同氏はこの店舗すべてに自ら出向き、閉鎖理由の説明や、働いてくれたお礼を直接従業員に伝えたのです。すると、対象店舗のスタッフのモチベーションが向上。各スタッフの努力により「閉店売りつくしセール」が成功し、ダイエーは2年4カ月ぶりに前年比プラスの売り上げを記録したのです。

閉店後も、同氏から直接言葉をもらったスタッフのモチベーションは維持されました。そして異動先のスタッフたちに積極的に働きかけを行い、同社は11カ月連続の前年比プラスの売り上げを達成したのです。

最後に

サーバントリーダーシップはご理解できたでしょうか。改めて、サーバントリーダーは「奉仕」の精神の下、部下を中心に考えた組織運営を行います。信頼関係を重視し部下の話に耳を傾けるため、サーバントリーダーは部下から信頼を得ながら同じ目標に向かって協力します。

メンバー各自のモチベーションを意識し、たとえ失敗してもそれを学びに変える環境づくりに取り組むため、部下は安心して自分の業務に集中でき自主的に工夫しながら行動できるのです。本コラムを参考にして、今一度ご自身が、どのようなリーダーなのかを確認、場合により補正いただれば幸いです。

 

文:芦田博

●コラムの記事は、毎月1日を予定しています。
8月公開予定コラム内容:「次世代のパートナー企業とは」