2025.05.06
Episode1 Innovation Branding

はじめに
コラムで新たなシリーズを開始します。それは「エピソードシリーズ」です。
よく、当社の類似企業でWEBやテレビで「実績紹介」していることがあります。そこで思うことがあります。
まず、一つ目に、「あなたの実績、それは決して一人でできるものではありません」と、、。
というのも、一人でできるプロジェクトなんてほとんどありません。よって「自分がこれを成し遂げた」みたいに紹介するのは道義的によくないかと考えています。プロジェクトは多くの人が協力して成し遂げたものであって、彼ら協力者の感情を踏まええれば、自己アピールの際に「実績紹介」にはかなり気を使わないと行けません。
二つ目に、顧客に対して無断で「実績紹介」するばかりでなく、そのプロジェクトのほんの一部だけやったくせに「このプロジェクトは当社が成功させました」みたいな紹介も多く見受けられます。
いずれにしろ、このような「実績紹介」をすることには当社としてはかなり抵抗があります。よって、当社のWEBサイトでは「実績紹介」はあまりしていません。
但し、ちょっと面白い、みなさまの役立つ「実績」なんかもあったりします。
これら各種戦略事例を実話に基づくフィクション(エピソード形式にして)にして紹介していきます。
これを読んで頂き「戦略の魅力や効果」を知っていただく機会になれば幸いです。
大手自動車メーカー、イノベーションブランディングがスタート
10年くらい前「とある縁」で大手自動車メーカー(カテゴリーブランド)のエンジニアS氏と仕事することになりました。
当時当社では「国際的エアレース」の国内レース運航プロデュースを続けていて、そのパイロットもマネジメントしていました。
前述した「とある縁」とは、S氏とパイロットと会う機会があって、その際、S氏が開発しているスポーツカーと、飛行機との共通点が多くあり、この共通点を何かカタチにできないかと言うことで、当社に相談があったのです。
S氏が言うには、自社の自動車ブランドはラグジュアリーブランドを目指しているのに、結果「オヤジが乗る車」の代表格の存在となってしまい、かつ、国内ブランドランキングも低迷しているとのこと。
S氏曰く、自社の自動車ブランドをベンツやBMWと同じ様な立ち位置にしたいとのこと。
その打開策の一つとして、今まではセダン系の車ばかり発売していたところ、スポーツカーを開発することで、ラグジュアリーカーであっても「躍動感」や「ワクワク感」を表現できると考えていたのです。
こうして戦略設計を始めていきました。
調査の途中、そのスポーツカーは「徹底的に空力を追求(当然のことかもしれませんが)」していたことを見出しました。
これが飛行機との最大の共通点です。
飛行機は原則、風洞実験を徹底的に行い、空力計算をして、あのような流線型の美しい機体が形成されます。
開発中のスポーツカーも同様の考えでした。
そこで、当社はこの「共通点」を起点とした戦略を組むことにしました。
それが「イノベーション・ブランディング」です。
通常、企業が役者、タレントやスポーツ選手等を起用して、自社のブランディング戦略に組み込むことは広く一般的に行われています。
ただ、これはタレントやスポーツ選手等のブランドイメージを活用して自社のブランドを底上げする受動的なものです。
もう一歩先に行くのは、「コ・ブランディング」と言って、これは、複数の企業やブランドが協力してブランディングを行うマーケティング手法のことで、共創ブランディングとも呼ばれ、特に欧米でよく使われています。単独ブランドのブランディングでは難しい、認知度向上やブランド価値の強化などを、共同で実現できるのがメリットです。
さらに、その上をいくのが、「イノベーション・ブランディング」です。
企業と企業、IPホルダー、もしくは役者等と組んで「イノベーショナルな何か」を生み出すことまでを目的とします。
そこで、今回はパイロットをイメージキャラクターとして活用するのでなく、相互に共鳴、共創しながら双方が向上している戦略を設計したのです。
具体的に言うと、
・イベントやSNS等を通じて、相互活動を発信する
・技術交流を通じて、相互の目標のサポートを行う
というものでした。
こうして、このプロジェクトは同年にスタートしました。

始まった活動
2016年は、当社マネジメントのパイロットも「エアレース」の成績は低迷を続けていました。
自動車メーカーも、その低迷を続けるパイロットからのブランド底上げ効果もなく、しばらくブランド低位の状況は続いていました。
しかし、S氏も、パイロットもそんなことは気にしていません。
「イノベーション・ブランディング」を通じて、その逆転劇を狙っていました。
その活動として、自動車メーカーはレース機の開発をサポートし、
パイロットは自動車の開発をサポートしていきます。
その努力は身を結び、パイロットは2017年「エアレース」で総合優勝を掴みとります。
自動車メーカーも2020年に航空技術を活用したスポーツカーが1週間で予約完売なるほどになり、
こうして逆転への狼煙が上がったのです!
思わぬ展開へ
こうして、ブランド低迷に悩んでいた、自動車メーカーでしたが、徐々にブランドランキングを上げて、2020年、S氏は同メーカーのプレジデントになりました。決して、これら「イノベーション・ブランディング」のみの成果ではないでしょうが、S氏の就任に影響した一つの事柄だということは事実でしょう。
そして、2023年、S氏は自動車メーカー(カテゴリーブランド)のプレジデントから、今度は、この自動車メーカー(本体)の社長に就任しました。
今や世界一の自動車メーカーの舵取りを任されたのです。
※ちなみに、カテゴリーブランドは、今年には、とうとうあらゆるブランドランキングで1位を獲得しています。
実は一つ自慢をさせてもらうと、S氏が社長になることを私は予言していました。
周囲からは「さすがにそれは無理では?なぜならば、あれほど大きな会社だから当時の社長とS氏の間に多くの役員がいて、数段飛びの出世など難しいのでは?」
という声が多くありました。
ただS氏の先見の明や、クレバーさ、実行力、当社の提案を受け入れる許容性、何よりも「車が大好き」であるということ。
変化の激しい自動車業界のトップにS氏は相応しいと考えていたからです。
ちなみに、S氏とパイロットも今も良好な関係が続いています。
このエピソードを改めて考えると、「戦略」は「人」のみならず、「会社」、「業界」まで少なからず影響するものだと、今も身震いがするものです。
当社もさらに気を引き締めて、戦略技術の向上に努めてまいります。
執筆:芦田博