2022.09.28

間もなくITベンダーは消滅する? その理由

間もなくITベンダーは消滅する? その理由

ITベンダー業界の現状と今後

近年、経済社会のデジタル化が進み、それに伴いIT業界の市場規模も拡大し続けています。ここ最近では、インターネットで管理するクラウドや、大量のデータを分析して傾向を把握するビッグデータ、AI(人工知能)、5Gといった新たな技術が次々と登場。また、企業のDX化の必要性はもはや一般常識です。このように、IT業界の市場は今後も衰えることなく伸びていくことは間違いありません。

 

 

社会全体がデジタル化する傾向は今後も続くことが予想され、さらなるIT技術の進化とサービスを求められるでしょう。

 

 

 

このIT業界を支える会社は様々です。一つはこれらIT業界を下支えするシステム設計・構築を行うITベンダー(Sierとも言う)です。また、ITシステムそのものをパッケージで開発するクラウドサービス会社、ソフトパッケージ会社などもあります。

 

 

さて、これらのIT系サービスの会社の現状及び、今後どのような方向に行くかを解説していきます。

ITベンダーの現状と今後

企業はある程度の規模になると、効率を求めてITシステムを導入し始めます。小規模の経理システムあたりから、そのうち販売管理、顧客管理など、多様な目的を持つシステムへと規模は大きくなっていきます。

 

 

近年ではソフトウェア自体も著しく進化しました。パッケージソフトもあれば、クラウドシステムを使用した安価なものもあります。また企業の事業体系やニーズにぴったりと適合するよう、一からシステムを組み上げる「スクラッチ」という手法もあります。

この「スクラッチ」を組みげるのが、ITベンダーです。

ITベンダーの業務範囲は以下のように分類されます。

 

 

①システム開発系

②通信インフラ系

③WEB系

④機械系

⑤コンサル系 他

 

 

ところが、これらITシステムの導入にも、かなりの割合で失敗がつきまとっています。

IT発注金額は、数百万のものから数千万、数億という規模のものまであるので、その費用はバカになりません。

 

 

一般的に費用は、システム制作に必要な工程と人数や日数などの「工数」から計算されますが、それはITベンダーの言い分次第。しかも開発の内容次第では、半年から数年かかることもあり、時間とお金がかかります。

ところが、いざ完成してみれば使えないという、ただの「水の泡」になるシステムが少なくありません。それが原因となって訴訟沙汰に発展した例もあり、企業経営に多大な悪影響を及ぼすこともあります。

 

 

では、なぜこのようにITソリューションの導入は失敗するのでしょうか。

 

それは、発注側の企業がITベンダーの使い方を知らないことと、受注側のITベンダーが企業のニーズを理解できないことです。この2つの要因により、ITの導入は失敗することが多いのです。

 

まず、企業側の問題から説明しましょう。

 

社内でITソリューション導入に関する知識や経験を持った社員がいるなら話は異なりますが、中小企業であれば特にITソリューションの導入経験を持たない企業がほとんどですから、まずは発注先としてITベンダーを選定に苦慮します。

ケースバイケースなので良し悪しの判断は難しいのですが、私が経験した事例をもとに、大まかな注意点を説明しましょう。

 

 

ある企業の導入失敗の事例を紹介しましょう。

 

 

この企業のコンサルティングに入った私は、基幹システムの導入に関して顧客企業とともに、ある大手ITベンダーのプレゼンに参加して、説明を受けることになりました。

ITベンダー側からは10人程度が来社し、プレゼンはこれまでの実績や高い業界シェア率から始まりました。説明を受けるうちに、顧客側の社長らは興味を示し、このITベンダーに決定しそうな雰囲気になっていきました。

しかし、私だけはこの会社のシステム導入に反対しようと思っていました。それは、これまでの経験から、反対する理由がいくつか浮かび上がってきたからです。

大手ITベンダーは通常、とても優秀なビジネスモデルを持っています。ある企業から高額なITソリューションのプログラム作成の依頼を受けて完成させたことが、ひとつの実績となります。しかしそこで終わりません。完成したシステムをコピーして一般販売ができるように調整し、パッケージソフトとして2次販売するのです。

数十万円クラスから数億円単位のものまで、一般用パッケージソフトが勢揃いします。次の案件からは、このパッケージソフトを利用し、ニーズに合わせてカスタマイズすればいいのです。カスタマイズすれば、そこでまた料金が発生します。このように、まるで練金術のようなステップで、売り上げを出す仕組みになっているのです。

 

 

ただ、このビジネスモデルに対して問題を提起しているわけではありません。問題はその後に発生します。

 

 

急成長し、すばらしい実績を上げてきたITベンダーは、技術のあるシステムエンジニアや、ITソリューションを熟知している営業の人材不足にいつも悩んでいます。そんな状況下で大きなお金が動く一からのスクラッチならばITベンダー側も優秀な人材をつけますが、パッケージソフトのカスタマイズ程度で済みそうならば、経験の浅い人材を担当させてもいいと判断します。
企業側も、パッケージソフトのどこをどう修正してほしいか、明確なオーダーが得意ではないことは先に述べたとおりです。お互いに知識や経験の乏しい人材同士の話し合いに陥りがちなのです。

 

ITベンダーはこうした曖昧なオーダーから自社を守るため、「要件定義書」という書類を作成します。この書類は、企業側のオーダーから修正点を聞き出してまとめたものです。これは業務としては当然のプロセスなのですが、要件定義書には、一種の契約書としてITベンダーを守るという裏の目的があるのです。

 

企業はどんなプログラムにしてほしいかさまざまな要求をしますが、専門知識が足りないので、要望の内容は曖昧になりがちです。これをITベンダーは企業側の注文として要件定義書にまとめ、言われたとおりに仕上げます。できあがったプログラムを実際に操作してみると、どうしても「使いにくい」「機能が足りない」など、何かと不満が出てきます。

 

ここで、最初に作成した要件定義書が力を発揮します。ITベンダー側は、「要件定義書にあるとおりに作成した」と主張するのです。その後に発生した問題点や不満は、要件定義書にはない「別の案件」となります。企業は使いにくいプログラムを我慢して使うか、新たな案件として追加注文するかしかなくなります。そこで追加注文すると、新たな注文となり多額な費用が発生します。こうして要件定義書はITベンダーの保険となるわけです。これがITソリューション導入の現実です。

 

前述のITベンダーに対して私が反対した理由とは、プレゼン時にITベンダー側から多くの来訪者があったという点です。人がたくさん来ると、企業側は「力を入れてもらっている」と思いがちですが、実は役割が分かれているだけで、まとめ役がいない可能性が高いのです。まとめ役がいれば、その人物がすべて話せばいいはずで、10人も引き連れてくる必要はありません。

 

また、シェアや実績を最初に話すのは、中身について自信がない現れで、実際、プレゼンの内容はそれに該当するような印象でした。だから反対したのです。

 

ところがこの企業は私の忠告を聞くことなく、ITベンダーの採用を決定し、反対の声を上げたせいか、それ以外の忠告も聞き入れなくなったため、この会社との取引を辞めました。

 

その後、私が予測したとおり、このITベンダーのソフトが導入されることはなく、2億円ほどの費用が水の泡になったと聞きました。企業の業績もその後、下落していきました。

 

 

ITソリューションでの失敗を避けるためには、企業のニーズや課題を把握し、かつITベンダーの特性やプログラムを理解して双方を上手につなぐコンサルタントを起用するのが望ましいのですが、優秀なコンサルタントはそう簡単には見つかるものではありません。IT化でコスト削減を図ろうという声が高まっていますが、それはITを使いこなすことができてこそ。ここでどのような選択をし、上手にITを導入するかが明暗を分けるのです。

パッケージソフト、クラウドサービス会社の現状と今後

 

パッケージソフトを販売する会社があります。

 

 

一からつくる「スクラッチ」は高額かつ失敗のリスクが高いことは先に述べた通りです。

 

 

「スクラッチ」は企業の独自に合わせてつくりますが、パッケージソフトは、企業の共通課題やニーズに合わせてつくったもので、機能は共通化され、また量産(複製)されたものであるため「スクラッチ」に比べ安価な設定になっています。

とはいえ、会計ソフトなどのレベルならまだしも、基幹システムクラスのパッケージになると、導入に数億円かかることもあります。

パッケージソフトは、たいていニーズに合わせた「カスタマイズ」が可能となっています。ところがカスタマイズは別料金になっていて、これがべらぼうに高い。安くパッケージソフトを買ったはずなのに、カスタマイズしたら信じられないぐらい高くついたという話はよく聞きます。

 

これは、私が以前、広告会社の役員をしていたときの事例です。起業から2年間は、経理ソフトの入力は税理士に依頼していました。その後、会社の売り上げが数億円規模になったため、社内に経理担当の人材を採用し、経理ソフトの選定をすることになりました。

ここで売り込みにきたのは、経理ソフト大手の上場会社です。当時の私は経営に関わっていたとはいえ、経理ソフトについては門外漢です。そこで、このソフト導入の判断は社長マターで行われました。

営業マンの説得力あるプレゼンが実り、この会社の扱う経理ソフトのパッケージを購入することになりました。購入価格は400万円で、ランニングフィーは、月数万円だったと記憶しています。経理の人材採用をプラスすると、トータルで月30万円のコストが増えたことになります。本来なら、これで万事解決となるはずでした。

ところが、この経理ソフトが自社の業務に適していないことがあとで判明したのです。またソフトはかなり高度なもので扱いが難しく、経理部が混乱しているのを見かけるようになりました。最終的に、この経理ソフトがそこそこ機能するまで、なんと2年近い歳月がかかってしまったのです。

遅ればせながらこれはまずいと思い、知り合いのシステム会社に相談したところ、このソフトが自社の規模に見合わないもので、もっと簡単な経理ソフトがあることを教えてくれたのです。勧められた経理ソフトを購入し、試しに使ってみると、あっという間に今までの問題は解決してしまいました。

結局、当初の経理ソフトは思い切って廃止してしまい、その会社とのランニング契約も停止しました。これは社長と私たち役員の判断ミスであり、経理部には申し訳なかったと思っています。
この一件があってから、外部会社の売り込みには注意を払うようになりました。

このように「スクラッチ」比べ導入のハードルは低くはなりますが、パッケージソフトもそれなりにリスクは生じます。

 

 

その打開策なのか、

近年、企業向けのクラウドサービスは急速な普及を遂げています。

勤怠管理、MAツール、人事管理等、これらクラウドソフトの広告はテレビ、タクシー広告などで目に触れることが増えてきたのではないでしょうか。

「クラウド」は「雲」という意味ですが、社外のどこか厳重に管理されたシステムセンターに置かれたサーバーで一括管理され、クラウド内でソフトウェアを動かすことによって使用します。設置場所は一切明かされません。

ソフトウェアはすべてインターネットを通して利用するため、会社の中だけでなく、ノートPCやタブレット端末、スマホなどで社外からも簡単に使うことができます。コストパフォーマンスは高いのですが、やはりパッケージソフト同様、自社向けに作ったものではないので、ソフトの使い勝手は必ずしもよいとはかぎりません。

 

 

特に、コストをかけられない企業は、このクラウドサービスを導入するケースが多く、

クラウドサービスは個別機能ばかりなので、複数導入する必要があります。

すると以下のような課題がでてくるのです。

 

 

①どんなクラウドサービスを導入したらいいか、その指針がわからない。

②複数のクラウドサービスがバラバラになってしまうため業務が煩雑になってしまう。

③これらクラウドサービスをつなぎ合わせることはできないのか。

 

ひとつ例を挙げましょう。これはわりと最近のことです。弊社が経営戦略策定のサポートすることになった会社は、某社のクラウド型顧客管理(CRM=カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)ソフトを使っていました。

使用人数に応じて料金が発生するタイプで、使用料は1人1万円。40人分の申し込みを行っていたので、月40万円、年間にすれば約500万円になります。このソフトを導入した理由も私の経験と同じで、やはりプレゼンとセールストークに納得して契約したとのことでした。

しかし、CRMにはある程度のノウハウが必要で、この会社の社員のスキルでは取り扱いは時期尚早でした。CRMはあくまでツールであり、使いこなせなければ価値がありません。どうやら導入すると劇的に売り上げが見込めると説明されたようですが、いざやってみると、容易には扱えなかったのです。

私は早々に、この会社に顧客管理ソフトの解約を提案し、シンプルなメールソフトを使った顧客管理手法を指導し、結果コスト削減にも成功しました。

 

このように、クラウドサービスであってもデメリットは存在します。

クラウドサービスを導入した結果、

「宝の持ち腐れ」になり、

有効活用できないまま費用だけがかかってしまう、

そんな企業がたくさんあるのです。

 

第三のシステム会社が必要なワケ

前述したように、今後のITベンダーは、

導入リスクの解消やコストイメージの払拭を行わないと、

今後の成長が望めないと考えられます。

通信インフラ系、WEB系、機械系、コンサル系などの市場はなくならないでしょうが、

基幹系はクラウドサービスへの移行が急速に進んでいます。

この基幹系を事業の中心とするIT ベンダーは今後消滅の危機さえ懸念されるでしょう。

 

 

パッケージソフト会社も同様、コスト高等、その立ち位置が中途半端になります。

 

クラウドサービスは今後も成長は続くと予測されますが、

企業側の視点から考える課題も先に述べた通りです。

 

ここで大きなエアポケットが浮き彫りになります。

日本の社会は98.2%が中小企業。

「スクラッチ」を導入できるのは大きな企業ばかりで、

そのニーズも減退します。

すると中小企業中心に「クラウドサービス」の活用の検討が活発化します。

しかしながら、クラウドサービス会社にとっては、

自社のサービスが売れればいいのであって、

他社との組み合わせ提案などは、

そもそも業務ではないし、知識もないのです。

ITベンダーも同様、高額な売上が計上できる、「スクラッチ」を提案したいのであって、

わざわざ安価な他社の「クラウドサービス」を提案するメリットなど一つもありません。

こうして仕方なく、ITシステムを導入しなければならない企業は、経営企画や総務、システム部などで、

独自に導入設計をする必要がでてきているのです。

当然、専門的な知識が薄いため、「クラウドサービス」であろうと導入に失敗してしまうのです。

 

 

このように、企業側の視点にたったサポートをするITシステム会社は存在していません。

よって、当社では、

この課題を解決すべく、

ソリューションサービスの開発を急速に進めています。

このサービスで必要とされるのは、

 

 

①企業ニーズに合わせて、ITシステムの設計を行える。

②クラウドツールの選定、その組み合わせ、必要により、プログラムを行う、

 

 

作成事例:

 

現在、このソリューションサービス部門が活性化して、多くの企業のシステム構築を行なっています。

ただ当社だけで、このサービスを行うつもりはなく、

このような新たな形態のITシステム会社が多くなれば、

社会にとっては良いことだと思います。

 

 

※本コラムは、「世界一やさしい 「経営戦略」立案講座」から抜粋、紹介しています。

 

 

文:芦田博

●コラムの記事は、毎月1日を予定しています。
11月公開予定コラム内容:「映画をつくる、その理由」