2025.07.25

Episode3 フィールドキャンペーン

Episode3 フィールドキャンペーン

戦略の本質とは?

経営戦略、事業戦略、マーケティング戦略等、戦略って、何か難しいイメージですね。
しかし、戦略の本質は意外や簡単なものではないでしょうか。
戦略を簡単に説明すると、
「今ある状態から良くなるように方法を考える。」
例えば、

・好きな人に、自分の想いをどのように伝えようか?
・友人の誕生日、どんなことをすれば喜んでもらうか?

これも立派な戦略策定と言えます。
今回は、戦略の本質が垣間見えるような事例を紹介します。
会社のホームページコラムならば、大きな規模の戦略事例を紹介しがちですが、
今回は会社として取り組んだ事例でも、
かなり小さな事例になります。
これをお読みいただければ、
戦略の本質を、ご理解いただけるかと思います。

芸能事務所からの相談

演歌歌手が所属する芸能事務所から相談があったのは、今から10数年前の春頃になります。
この事務所は老舗の演歌芸能事務所をスピンアウトして設立したばっかりの若い会社。
所属する演歌歌手は3人。社長も20代でした。

相談内容は、小学生、しかもデビューもしていない演歌歌手のプローモーション。

「芦田さん、この子は、“美空ひばり“の再来と言われています。この子を今年の紅白に出してほしいんです!」

最初は耳を疑いました。
デビューさせて成功させるのがゴールならば理解できますが、まだデビュー前、しかも小学生。
そしてゴールが当年度中の紅白歌合戦の出場です。
さらに、

「予算は150万円です。これでなんとかならないでしょうか?」

演歌の世界、お金が回っていないのはよく聞く話ですが、

「150万円でで何ができるだろうか?」

その場でお断りもできるのですが、まずはもっと業界のこと、この子のことをヒアリングしてみることにしました。

そしてヒアリングへ

まず聞いたのは、

「紅白って、どうやったら出れるの?」

若い事務所の社長とは言っても、社長が以前属していた会社は老舗の演歌歌手事務所です。
さすがに業界の情報は知っているかと。

「ご存知、コネが必要なのはご理解いただけるとは思うのですが、まずは売れないといけません。」

想像通りの答えが返ってきました。コネに関しては聞く必要もないことでもありますね。

「では、何を持って売れた、になるの?」

「ちょっとは注目されることと、デビューシングル◯◯万枚以上ですかね。」

まずは簡単に考えることにしました。

「では、注目されるようにするとして、◯◯万枚はあらかじめつくればいいのでは?」

私も音楽業界のことはわかりません。素朴な質問をしました。

「そこが問題なのです。新人には所属するレコード会社がCDの枚数を最初◯◯千枚と決められます。それ以上の作成は無理かと。」

要は売れるように仕向けたとしても、当初のCD発行枚数は所属するレコード会社に限定されているので、結果規定枚数をさばくとはできないということが判明したのです。
そこでさらに質問を続けます。

「では、レコード会社にもっと作成してもらうのはどうしたら良い?」

「CDショップからバックオーダーがかかれば、レコード店が“売れている“と判断して増販が決まります。」

「なるほど、現状では袋小路だね。(ここで頭を整理します)ちなみに、その子、小学生だから夏休み時間とれるよね?」

「もちろんです、それがどうかしました?」

フィードキャンペーンの企画

事務所の社長と話し始めてやく15分くらいでしょうか。
戦略を考え、ぶつけてみました。

その演歌歌手のデビュー曲のタイトルは「〇〇祭り」でした。
まずは、
・小さな中古のワンボックスを購入すること
・その車をラッピングして曲が宣伝できるアドカーにすること
150万の予算の中、車購入費とラッピングで120万、
残りはチラシとWEBサイト(SNSも設置)の制作に充てました。
ちなみに当然当社の利益はほとんど残りませんでしたが(笑)

次はオペレーションの説明をします。
・WEBサイトを公開
・全国キャラバンの告知
・夏休みの全国の祭をピックアップ
・ピックした夏祭りで歌ってもらう
演歌歌手は小学生ですから夏休みを利用して北は北海道から沖縄まで全国キャラバンをすることにしました。
さらに曲のタイトル「〇〇祭り」にマッチする、ピックした夏祭りに無償でも歌ってもらいます。
こうして次々と全国各地の夏祭りで出演が決まっていきました。

そこでもう一つ社長に指示をしました。
・絶対に会場でCDを売らない

「えっ?なんでですか。せっかく祭の会場で歌えることになってCDを売る絶好のチャンスじゃないですか!!」

社長は少し憤慨しています。私がとち狂ったと思ったのでしょう。
私はさらに説明しました。

「会場で小さな小学生が美声で歌う。瞬時にファンになるのは明らか。そしてスタッフがチラシを配る。CDはどこで買えるのかを聞かれる。スタッフはCDショップで買えることを伝える。そしてファンはCDショップに出向く。しかしCDは置いていない。店員も困る。するとどうなりますか?」

「そうか、それでバックオーダーに繋がるんですね!!」

社長はようやく私の真意がわかったようで、感動しているよう。
ちなみに、本当はこのプランは後ろめたい気持ちもありました。
夏祭りで演歌歌手のファンになる方はほとんど高齢者ではないか。
そのファンをCDショップまで歩かせるには少し罪悪感もありました。
(なので今はこのプランは提案しないかもしれないですね)

こうしてフィールドキャンペーンが夏休みの始まりとともにスタートしました。

 

 

この戦略の行方は?

この施策、後は事務所にまかせて随時報告をしてもらうことにしました。
夏休みも中盤のころ一報が入りました。

「最初のCDロットは完売、増販が決まりました。目論見通りです!」

こうして増販は決まり、夏休みが終わっても朗報は続きます。
テレビの出演が増えたり、
何よりの朗報はCDの販売が目標に達したことです。

「CDが目標に達したということは、私の役目は一旦終わりですね。紅白出演への最後のプッシュは社長の大事な仕事です。頑張ってください。」

そして最後の朗報がやってきたのは、年末間近、11月中旬くらいです。

「芦田さん、紅白出場決まりました!」

こうして紅白に出演し、彼女は以後テレビCMや番組、イベントなどへの仕事が次々と決まっていきました。

戦略で全てを変える

その後、演歌歌手は大手の事務所に移籍して、私もサポートすることはできなくなりました。
ただ、戦略によって(良いか悪いかは別ととして)事務所も演歌歌手の未来も変わったのは言うまでもありません。

私は企業の戦略もたくさん関わっていますが、
規模の大小はあまり関係なく、
いかに戦略という名の工夫が考えられるかが重要だと思っています。
ちなみに当社のコーポレートスローガン「Strategy Changes ALL!」は、
このような様々な戦略事例から生み出されたものです。
このスローガンに裏切らぬよう、
日々精進するのみですね。

文章;芦田博