2021.08.24

世界一やさしい 「経営戦略」立案講座 第三章

世界一やさしい 「経営戦略」立案講座 第三章

自社の状況を的確に把握する

実は見過ごしがちな調査分析

調査分析は、経営者が掲げた方向性や目標に向けて踏み出す際、一番最初に行わなければならない準備です。

 

調査分析には、「事前調査」「外部環境分析」「内部環境分析」「統合分析」の4タイプがあります。これらのどれかに過不足があっても、調査分析のバランスが崩れてしまいます。

 

私たちの会社が企業をサポートする場合、まず最初に製品・サービスについてのヒアリングや事前調査を行い、次に企業の商品やサービスを取り巻く外部環境や内部環境を調べます。こでまとめられた調査結果をさらに細かく分析することで、その企業が現在置かれている状況や課題を見極め、改善するための戦略の見直や戦略デザインの指針を打ち出します。

 

具体的には次のような方法を取ります。

 

 

①事前調査

企業の社長や担当者からヒアリングを実施して情報を取得したり、自己診断するなど、企業の現状を把握する調査です。

 

事前調査には2つの調査があります。それが「事前ヒアリング」と「自己診断」です。「事前ヒアリング」では、外部のコンサルタントやストラテジストを起用し、経営者や幹部、担当者などと直接会って、製品や事業などについて細部にいたるまで徹底的なヒアリングを実施してもらいます。第三者に客観的に見てもらうことで、今まで気づかなかった課題や問題点だけでなく、新たな資源の発見が期待できます。

 

もうひとつが、外部のコンサルタントやストラテジストをつけず、本人がチェックをする「自己診断」です。その際には、複数の確認事項をもとに社長や幹部ら、経営陣にそれぞれ「自己診断」をしていただきます。本来自社の経営環境は経営陣がもっとも理解しているはずですから、これを振り返ってもらうのです。自己診断を行うことで、改めて自社の資源に気づいた例がとても多くありました。「自己診断」が簡単にできる「企業診断ナビ」が、次のサイトにあります。ぜひ、試してください。

 

オンライン経営診断|ストラテジックパートナーズ

 

何よりまず、自社の分析をすることが大切です。己を知ることは、今後の経営戦略策定において、的確な診断を下すための重要なデータとなります。

 

 

●事前ヒアリング:社長や製品・事業担当者からヒアリングを実施し、課題に対しての情報を得ます。

 

●自己診断:社長や経営陣に診断をしてもらい、企業の原状の総合的な企業力を把握します。

 

 

 

②外部環境分析

外部環境分析とは、その名のとおり、企業を取り巻く外側の状況を把握するためのものです。例えば「機会」「脅威」「競合」「業界事情」など、さまざまな視点から情報を収集し、企業がどのような状況に置かれているのかを客観的に判断します。

 

絶えず競争の圧力や環境の変化にさらされている企業は、ただ経営しているだけでは淘汰されるのみです。企業は常に変化に対応しなければなりません。経営環境を取り巻く環境の変化は極めて複雑で急激なため、状況の変化へ速やかに適応し、自らを変えることが重要です。

 

分析には限界がありますが、少しでも課題が明らかになれば、企業運営を好転させるきっかけとなります。自社を取り巻く環境がどう変わるのかを見ずに、戦略計画を立てることはできません。

 

健全なる存続と繁栄を達成するためには、外部環境分析を前提とした戦略計画が必要なのです。

 

一口に外部環境分析といっても、いくつかの種類があるのですが、ここでは大きく2つに分類します。

 

そのひとつが「マクロ環境分析」です。これは、その名のとおり、自社の経営環境を広い視点から見るというものです。

 

いくら優秀な経営者であっても、このマクロ環境の分析と把握ができていないことが原因で、自社を窮地に追い込むケースがよくあります。例えば、法的な規制が施行されることは予見できたのにうっかり見落とし、自社の製品が後に規制の対象になったり、消費者ニーズが急に変化したことに気づかないうちに、自社のサービスが飽きられたりすることがあります。

 

経営を行っていると、徐々に業務優先になりがちで周囲の変化に疎くなり、まさに「木を見て森を見ず」となってしまった経営者を多くみてきました。だからこそ、一旦、視点を広く持ち、自社の経営環境を見渡す必要があるのです。

 

このマクロ環境分析を行うフレームワーク(※注)にはいくつかの種類がありますが、代表的なものが、米国の著名な経営学者であるフィリップ・コトラー教授が考案した「PEST分析」というフレームワークです。PESTとは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)という4つの視点から、経営環境を分析しようというもので、もうひとつの外部環境分析が、「ミクロ環境分析」です。外部環境をマクロな視点で見た後、今度は焦点を狭くします。「森を見た後」に「林を見る」分析です。

 

ミクロ環境分析で有名なのは、最年少でハーバード・ビジネス・スクールの教授となったという、マイケル・E・ポーター教授の「5フォース分析」です。前述のマクロ分析は、自社の経営環境には間接的に影響が出るのですが、5フォース分析は、企業の経営検鏡に直接的に影響を及ぼす、競合他社などの力関係を整理するものです。

 

例えば、これまで新規参入の障壁が高かった分野が規制緩和され、どんな会社でも参入するようになった場合、「新規参入者」の脅威が発生します。特に異業種ならば、どのような手を使って来るか予測は困難で、自社に大きな影響を与えかねません。誰でも参入できる業種の場合は、常に激しい競争環境に置かれています。

 

「売り手(サプライヤー)の交渉力」とは、何らかの仕入れがあったときの仕入れ業者と自社の力関係を表します。仕入れているものが希少な製品・サービスであれば、その製品・サービスは奪い合いになります。そうなると仕入れ業者ほうが優位に立ち、仕入れ価格が高騰したり、仕入れそのものができなくなる可能性があります。結果、自社の利益が減ったり、または、製品・サービスの提供ができなくなったりします。

 

「買い手(顧客)の交渉力」は、顧客との関係です。もし、ほかにはないおいしいパンをつくれば、行列ができて顧客は1時間待ちでも購入しようとしますし、平凡なパンなら、店の前で呼び込みしても誰も店に入ってくれないかもしれません。自社の製品・サービスが、顧客にとって希少価値があるならば、自社の優位性は高まりますが、顧客にとって必要性が感じられないものなら、顧客のほうが優位になるのです。

 

「代替品や代替サービスの脅威」は、自社の製品・サービスの代わりになるものの把握が必要です。例えば画期的なダイエットサプリを開発したところ、ブームが起きて、会社が急成長したとしましょう。その後も会社は、競合他社の製品に負けることなく、ダイエットサプリのシェア自体は高く維持されているのですが、なぜか売り上げが急に下がり始めました。さて、その原因として何が考えられるでしょうか。

 

痩せたい人はダイエットサプリが欲しいのでなく、「痩せる」ことが目的です。「痩せる」ことができれば手段は何でもかまわないのです。この場合は、確実に痩せるとうたった画期的なフィットネスジムができたかもしれませんし、ランニングブームが起きてサプリに頼る人が減り、ランニングに向かったのかもしれません。原因は得てして思わぬところににあるもので、自社の競合は同様の製品・サービスを提供する競合他社とは限らないという一例です。

 

最後が中心にある「業界内の競合」です。経営者の多くは競合他社の動向に目を奪われやすく、ライバル視している間に、そのほかの4つのフォースの分析を見落とすことがとても多いのです。

 

 

 

このように、自社の経営環境を5つの視点で見直すことはとても重要です。書き出してみると、実は自社の製品・サービスを取り巻く環境が非常に厳しいものだったことが発見できたり、どこかのフォースに弱点を見つけて即座にその対策を考えることができたりします。

 

分析は難しそうに思われがちですが、まずはメモ程度でもかまわないので、一度書き出してみることをお勧めします。

 

 

③内部資源分析

外部環境の分析後、今度は内部資源の分析に入ります。

 

自分の会社の強みや弱み、社員の教育状況や能力、経営者や幹部たちの能力や素養まで、すべてを第三者的な立場から問い直し、評価する方法です。このパートも意外と見落されている場合が多いので、経営者は注意すべき点でしょう。

 

内部資源分析では、続社内のシステム・人材・技術・経営力・財務・ネットワーク・生産能力・立地などの面で競合他社と比較し、「優れている」もしくは「劣っている」かを評価していきます。

 

企業の「強み」とは競合へ優位性要因、つまり競合他社より優れている要因のことです。近年は「ブランド戦略」が重要視されていますが、ブランドは「内部環境要因」として大きな影響を与える要因のひとつです。

 

「強み」があれば、その逆の「弱み」も存在します。専門的には「劣等性要因」と呼ばれますが、「弱み」をはっきりと認識しておく必要があります。経営戦略策定していく上で、「技術力が弱い」「人材が育ちにくい」「立地が悪い」などの「弱み」があり、経営に支障をきたすのであれば、それを克服するための対応策を考えなければなりません。

 

「強み・弱み」をきちんと把握することにより、「戦い方」を考えることが可能となります。内部環境分析には、こうした重要な意義があることを知っておくことが大切です。

 

 

 

では、内部資源分析の代表的なフレームワークを紹介しましょう。それはジェイ・B・バーニー教授が提唱する「VRIO分析」で「内的資源分析」とも呼ばれます。

 

これは経済的価値(Value)、希少性(Rarity)、模範可能性(Inimitability)、組織(Organization)の4つの観点から分析するタイプの評価方法です。ただし、内的分析に力点を置いているため、これひとつだけでは分析結果に不足部分が生じます。

 

 

 

有名なマーケティング分析のフレームワークは一長一短で、何かしらの偏りやサイズの違いがあるため、包括的に日本の中小企業を評価・分析することは難しいと考えています。

 

 

 

さて、各種分析には、代表的なフレームワークしか紹介しませんでした。調査分析をフレームワークに多くの種類があります。ネットでも調べることができるので、興味があれば、または、必要に応じて調べてみてください。

 

 

 

その他のフレームワークの参考例

 

 

「ポジショニング分析」

 

「戦略ポジショニング」とは、その業界におけるそれぞれの企業の立ち位置のことです。企業分析や戦略立案において、自社がどの位置にいるかを確認する「戦略ポジショニング分析」は非常に重要な手法です。

 

一般的に、戦略ポジショニングの切り口として代表的なのは2軸のマトリックス(ポジショニングマップ)を作って分析する方法です。

 

 

 

「バリューチェーン分析」

 

「バリューチェーン」とは、原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでの企業活動を、一連の価値(Value)の連鎖(Chain)として捉える考え方です。「価値連鎖」と訳されますが、分かりやすくいえば利益が生まれるまでの業務活動の連鎖を表します。

 

このバリューチェーンの活動(企業内の業務)ごとにコストや強み・弱みを明確にするのがバリューチェーン分析です。

 

 

 

「サービスプロフィットチェーン」

 

サービスプロフィットチェーンは、売り上げや利益に伴って生まれた従業員満足、顧客満足、企業利益などの因果関係を示したフレームワークです。

 

従業員満足度(ES)が向上すると、提供するサービス水準が向上します。またサービス水準が向上すると、顧客満足度(CS)が高まり、顧客満足度が高まると、顧客ロイヤリティーが向上します。その結果として、売上増加や利益獲得が可能となるという考え方です。

 

 

④統合分析

経営戦略は、自社の置かれた環境を考えることなく策定することはできません。そこで統合分析を行います。これは、外部環境分析と内部環境分析で導き出した要素を組み合わせて行う分析です。

 

これまで得た事前調査、外部環境分析、内部環境分析の情報をすべて統合し、全体像をしっかりと把握します。ここで不足情報が見つかればさらに情報収集をして不足分を埋め、総合的に経営戦略のコアとなる部分を見つけ出す作業です。すなわち今までの外部環境分析や内部資源分析は、これから戦略を策定する上での材料集めだったわけです。

 

自社の置かれたマクロ・ミクロ環境はどのようなものだったか?

 

自社の強み、弱みはどのようなものだったか?

 

振り返ってみてください。

 

これらを統合して行くと、自社がするべき打ち手、すなわち経営戦略が少しずつ見えてきます。

 

この工程は料理に似ていると私は思っています。マクロ・ミクロ環境の情報素材、内部資源素材を手にいれたら、そこから、どんな料理がつくれるのかを考える工程なのです。

 

 

 

この統合分析で有名なフレームワークは、SWOT分析です。

 

SWOT分析は、自社の置かれた環境を明確にし、そこから戦略と戦略課題を導き出すためのフレームワークで、「戦略的思考」の道具として評価の高い分析方法です。

 

「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの観点から自社を分析し、経営戦略を立てていくための方法で、「強み」と「弱み」は前段で得られた内部環境分析から挿入し、「機会」と「脅威」は外部環境分析から得られた情報を挿入することで統合分析が行われます。こうして「強み」と「機会」はプラス要因、「弱み」と「脅威」はマイナス要因ですから、強弱の色分けが一覧しやすいメリットがあります。

 

ただしSWOT分析は散々使わてれきて、今ではありふれた分析方法となりつつありますし、個々の企業の個性によっては、SWOTが使えない場合もあります。実際のストラテジストはSWOT分析を利用せず、毎回企業ごとに独自開発した統合分析フレームワークを使用しますが、皆様は、まずはこのSWOTを使用してみることをお勧めします。環境分析や内部資源分析を通じて、それらの情報がスムーズにSWOTには入れることができますし、その整理だけでも、大きな効果が期待できます。